これから医療・介護を目指す方へ ~介護予防の取組み事例~
さて、コロナ禍の影響が日本では6月には、一旦下火となりましたが、7月に入り第二波の影響が強くなっております。
昨今、ニューノーマルと言われる、アフターコロナに対する生活様式のスタイルチェンジが叫ばれております。
そもそも、ニューノーマルとは?新しい「常態」や「常識」と言われております。
第一に、2000年代初頭にインターネットの普及によるネット社会到来。
第二に、2009年リーマンショックによる行き過ぎた資本主義社会に対する反省。
そして、第三となるコロナ禍におけるアフターコロナに対する生活様式のスタイルチェンジと言われております。
ここ半年間、これだけ毎日取り上げられたニュースが、未だかつてあったでしょうか?
アフターコロナによるニューノーマルの一つとして、手洗い・うがい励行等、未知のウィルスに対する「予防」が非常に重要であると言えます。
前回、政府が描く介護予防のグランドデザインについてご紹介させていただきましたが、介護予防をまとめると、高齢者の方々が要介護状態になることを予防し、且つ要介護状態の軽減もしくは悪化することを防止することを目的とされております。
特に「フレイル」と呼ばれる状態にある方々を適切な医療や介護サービスに接続することが必要となります。
そのために、様々な角度でアプローチすることが必要となりますが、今回は自治体を中心に「介護予防」を実践する取り組み事例として滋賀県東近江市の取組みについて、ご紹介したいと思います。
※「フレイル」とは?「加齢により心身が老い衰えた状態」と定義されております。
目次
高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施
尚、政府では、各自治体で介護予防への取組みを行うにあたり、保健事業と介護予防を一体的に取り組むよう以下の取組みについてリンクさせております。
<市町村 等)
①事業全体のコーディネートやデータ分析・通いの場への積極的関与等を行うため、市町村が地域に保健師・管理栄養士・歯科衛生士等の医療専門職を配置
<医療・介護データ分析(国保連 等)
②高齢者一人ひとりの医療・介護等の情報を一括把握
③地域の健康課題を整理・分析
<市町村 等>
④多様な問題を抱える高齢者や閉じこもりがちで健康状態の不明な高齢者を把握し、アウトリーチ支援等を通じて、必要な医療サービスに接続
<保健事業(疾病予防・重症化予防>
⑤国民健康保険と後期高齢者医療制度の保健事業を接続
⑥社会参加を含むフレイル対策を視野に入れた取り組みへ
⑦医療専門職が、通いの場等にも積極的に関与
<かかりつけ医 等>
⑧通いの場への参加勧奨や、事業内容全体等への助言を実施
<介護予防の事業 等>
⑨民間機関の連携等、通いの場の大幅な拡充や、個人のインセンティブとなるポイント制度等を活用
⑩市民自らが担い手となって、積極的に参画する機会の充実
このように、通いの場に保健医療の視点からの支援が積極的に加わることで、
・通いの場や住民主体の支援の場で、専門職による健康相談等を受けられるメリット
・ショッピングセンター等の生活拠点等を含め、日常的に健康づくりを意識できる魅力的な取組に参加するメリット
・フレイル状態にある者等を、適切に医療サービス接続する体制
これらの取組みを通じて、高齢者の保健事業と介護予防を一体的に実施することにより、地域に元気な高齢者が増えるだけでなく、住民の健康意識の向上や健康寿命の延伸が期待されてます。
介護予防取り組み事例 <滋賀県東近江市の取組み>
■市町村の概要
面 積:388.4k㎡
人 口:114,604名
世 帯 数:43,368世帯
高齢化率:24.6%
後期高齢者一人あたり実績医療費:925,844円
取組のポイント
日本では、65歳以上の高齢者人口が3,588万人(2019年9月現在)となり、高齢化率は、28.4%と世界で1番高い高齢化率となっております。
滋賀県東近江市でも高齢化率が、24.6%と、日本の平均高齢化率を下回っておりますが、高い率を推移しております。
東近江市では、後期高齢者ウエルカム事業である「いきいきシニア75」に加え、運動指導・体力測定・栄養指導をはじめ介護予防事業、終活をセットにし、高齢者の健康づくりに関係する課が部の枠組みを超えて連携し、新たなフレイル対策の枠組みを構築することをポイントとし、介護予防へのアプローチされております。
取組のきっかけ
高齢者ウェルカム事業「いきいきシニア75」
東近江市では、平成17.18年度の合併により1市6町から「東近江市」が誕生しております。
合併前市町での介護予防保健事業の取組みついて、各市町ごとに差が生じていたようです。
このような背景から合併以前より実施していた老人保健制度のなかで、該当者を前月に集め、保険証の交付や制度説明行い、保健師からの健康づくりの説明を行っていた町の事業を復活させ、健康ポイントプログラム(マイレージ)とセットにした事業を実施できないか?と
新たな施策に向け、担当課・他団体の領域を超えたプログラムが構築されました。
医療・介護情報の把握/地域の高齢者の健康課題を整理・分析
データ分析による、地域特性の細分化
東近江市では、介護保険の認定と医療の新たな関わりを把握するため、以下の情報の把握・健康課題の整理/分析を実施されております。
■国民健康保険・介護・医療データ分析事業として、データ分析実施。平成23年4月から平成29年3月までの6年間分の住民情報・国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険それぞれのレセプトデータ、介護保険認定・給付データ、健診データ、死亡個票を連携させ、一体的な分析を実施。
■在宅医療の地域特性がわかるとともに、医療にかかる費用が減少しても、介護にかかる費用が増加するといった事例がみられ、介護と医療の総額から社会保障費として考えることがデータ分析の結果として現れる。
■分析結果は、地域の特性を細分化したもので、介護保険の認定と医療の新たな関りとして、どのようなイベントが大きな要素となるか?さらなる分析が大きな課題であると認識。
市町単位ではありますが、各保険者のレセプトデータや介護保険認定・給付データを基に、介護や医療の現状把握を分析する取組は非常に有用であると思います。
これらを解析すれば、より効果的で効率的な医療や介護サービスが提供可能となり、不足するサービス並びに将来的に不足するであろうサービスの、予見の一つになり得ると思います。
いわゆる、日本国民の健康に関するビッグデータの活用と言えます。
アウトリーチ支援等を通じた医療サービスへの接続
特定健診未受診者へのスクリーニング
■国民健康保険加入者で特定健診未受診者を戸別訪問し、現在の体調や暮らし方、特定健診未受診の理由について確認作業を実施。市内14地区を4つのブロックに分け、4年に1回自治体と委託業者とで、連続させ訪問。
■飛び込みで戸別訪問し、不在の際は不在票を入れ、後に架電。
■訪問地域は、健診の受診率が上昇傾向であったが、継続して受診できない現状もあるため、平成30年度から実施方法を再構築し、対象者に併せた勧奨内容として、過去5年以内に受診履歴のある方にはその結果分析を送付する等、特定健診未受診者に対するアプローチを実施。
自治体によって、住民の健診に対するアプローチは大きく異なると思います。
定められた年齢に到達した際、市役所よりハガキによる通知もあれば、市民広報での通知等、自治体ごとに様々なアプローチがあります。
東近江市では、戸別訪問を実施されており、健診受診に対する直接的な説明を受ける機会があれば、住民にとっても「気づき」の場となり、早期発見に寄与する活動とも言えます。
国民健康保険と後期高齢者医療制度の保健事業を接続
健康保険から後期高齢者医療制度へのスムーズな移行
■後期高齢者ウェルカム事業「いきいきシニア75」が実施されております。75歳を翌月に控えた対象者に対し、市内4カ所で説明会が開催され、各種健康保険から75歳以上加入の後期高齢者医療制度へのスムーズな移行を促しておられます。以下、説明会における主だった内容となります。
・後期高齢者医療被保険者証の交付
・保健師による適正受診や健診/介護予防の説明
・管理栄養士による栄養指導
・運動指導士による運動指導
・口腔指導
・終活
・健康貯金の説明
普通に生活されている方々からすると、自身が75歳を迎えた際、自身の健康保険が後期高齢者医療に移行することを、どれだけの方がご存知でしょうか?
恐らく、「聞いたことはあるけど。。もう自分もそんな歳になったんだ。。」
という感覚的なものかもしれません。
もちろん、今の高齢者の方々で75歳でも現役で就労中の方もおられますので、年齢だけで後期高齢者の領域とすることには些か抵抗はありますが、医療や介護のサービスを受ける側とすると、経済的な負担等を勘案されたものであると思います。
東近江市では、将来的な「フレイル」に対する本人への動機付けともなる取り組みの一つになっているものと思います。
フレイル対策を視野に入れた取り組みを実施
各課の情報連携による、フレイル対策、介護・医療データ分析の取組み
東近江市では、担当課を横断し、連携することにより、フレイルチェック、いきいき運動教室、物忘れ相談室、介護・医療データ分析等の取組みについて情報連携し実施されております。
この取り組みによる効果のひとつとして、介護・医療データの分析等を行うことにより、多剤投与や相互作用並びに重複投与等、処方箋に疑義が生じるケースを未然に防ぐ取組が行われております。
服薬管理の連携内容は以下のとおりとなります。
①保険者(国民健康保険等)よりレセプトデータの提供
②委託法人より服薬内容のチェックを実施。継続して服薬中の多剤併用と、高齢者に慎重な投与が必要な薬剤のチェックを実施。また、薬剤の相互作用・重複服薬のチェックも実施。
③薬剤の見直しが必要と思われる患者へ(服薬情報のお知らせ)として通知書を送付
④(服薬情報のお知らせ)を受け取った患者は、かかりつけ医もしくは、かかりつけ薬剤師へ持参
⑤(服薬情報のお知らせ)の内容を、かかりつけ医もしくは、かかりつけ薬剤師が確認し、医療機関は保険薬局と連携し、薬剤の見直しを実施
高齢者の方々は、フレイルにより、複数の疾患や持病等を発症し、それに応じた複数の診療科での受診が必要なケースがあると思います。
総合病院のような複数の診療科を有し、ひとつの病院で治療と処方が完結するようであれば、院内で情報共有することが可能ですが、例えば、糖尿病は●●クリニック、整形外科領域は●●病院。等各診療科ごとに医療機関を複数掛け持ち受診される方の、服薬情報が横断的に把握することは、難しいとされておりました。
こちらの取組みを実施することにより、異なる診療科で、異なる医療機関からの同じ薬剤の処方や、多剤投与等、包括的に患者の服薬情報が管理できれば、未然に無駄な処方を減らすことが可能となります。
とある記事では、日本の「飲み残し」となる「残薬」は年間500億円にのぼるとも言われております。
かかりつけ医やかかりつけ薬剤師による残薬管理に加え、このような横断的な取組みにより、日本の社会保障費が抑制が期待されるものと思います。
通いの場への参加勧奨・助言・大幅拡充・個人へのインセンティブ措置等を活用
「健康貯金」のポイント制度による目標達成プログラムの導入
・毎日できる目標を2つ決め、毎日「健康日誌」に記入
・目標を達成できればポイントとなり、1ポイントにつき2円で商品と交換が可能。使途は商品券が多い
・制度を作り、1年程度ではほとんど費用が発生しないため予算要求も容易。平成30年度における参加者は、30~40%で、年々参加者数と参加率が増加し、健康貯金への参加も増加
・健康貯金は、2年間の取組みになっており、卒業生が徐々に増加
この「健康貯金」への取組みが、実はアプリとしてAPP等でダウンロードが可能です。
BIWA-TEKUアプリ
現在、滋賀県内の各市町村が横断的に参加する健康推進アプリとなっております。
BIWA-TEKUアプリでは、滋賀県各名所のスタンプラリーや、バーチャルラリーに参加し、目標達成することにより所定の健康ポイントが付与される仕組みです。
例えば、バーチャルラリーでは、滋賀県の名所の一つである「彦根城一周」に参加すると、本当の彦根城を一周するのではなく、約4kmウォーキングすることにより、バーチャルで彦根城を一周したとされミッションクリアとなり、コース達成報酬5Pが獲得される仕組みとなります。
また、自身で毎日行う目標を設定し、達成することにより1日1回ポイントが獲得することができます。
私の目標として、ウォーキング・ランニング・体操・朝食・体重を計る・血圧を測る。の6つから選択することができ、高齢者の方に対して自身の健康にもアンテナを張る動機付けとして、このようなアプリで健康管理とインセンティブ制をマッチングさせたアプリとなります。
滋賀県の多くの市町村が参加しており、非常におもしろい取組みだと思い、今回ご紹介させていただきました。
ちなみに、年1回貯まったポイントに応じ、健康グッズや滋賀県の特産品、商品券の応募をすることができるようです。
抽選で当選は決まるそうですが、自身の健康に寄り添いながら、その成果として年1回の楽しみにしてもいいですね。
19歳以上、滋賀県の方以外の参加も可能なようですので、興味を持たれた方は、一度アプリを検索していただければと思います。
今回は、介護予防に関する各自治体の取組み事例のひとつとして、私ども京都・滋賀介護求人サーチもアプローチしております東近江市の取組みについてご紹介させていただきました。
こちらの取組みは、令和1年5月22日 第1回高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施の推進に向けたプログラム検討のための実務者検討班より、発出された参考資料4を基にご紹介させていただいております。
要介護状態になる前、また要介護状態の悪化防止等の施策は、これからの日本が迎える超高齢化社会の中で、介護領域におけるキーワードになると思います。
今後、AIやIT並びにIoTを用いた先進的な取組により、様々なものが開発されると思いますが、医療や介護の現場で、「人」がいなくなることは、あり得ません。
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